【コラム】Biologyの教授になる(でいる)ための条件

医学、遺伝学、分子生物学、免疫学、神経科学など生物学(Biology)の分野でどういう教授が望ましいのか考えてみた。

一般的にほとんどの教授は競争的資金を利用して研究している。その資金を得るためには良い業績が必要で殆どの場合、ImpactFactorが高い雑誌、特にCell,Nature,Scienceという通称CNSと呼ばれる雑誌に論文が載ることで大きなadvantageを得ることができる。
その仕事の内容を聞いただけではどれだけ重要かわからなくても、Natureに載った仕事といえば、殆どの科学者はそのインパクトを推し量ることができる。

もっと一般的に言えば、Natureに載った=東大卒と同じようなものと思ってもらっても良い。

アカデミアでは不思議なことに業績の高さと効率はあまり問題視されない。
例えば、学生が60人くらいいるラボで毎年Natureが2報出るが他の学生は討ち死にするラボと、15人くらいでNatureは出ないけれど全員JBC以上の論文が出るラボではどちらの教授の評判が良いだろうか。
人数からわかるようにお金を持っているのは前者である。


さて、本題。学生側からみて不満のほとんどでない教授はどういう教授だろうか。
一番ひどいのはアカハラパワハラばっかりでいて、かつ業績が出ない教授だ。
一番良いのは迷ったときにベストな選択肢を提供し、かつどんな学生にも良い業績を出す教授だろう。

日本では厳しい先生が尊ばれる傾向があるけれど、厳しさは実はどうでもよい評価軸である。
大切なのは、学生には考えつかなかったシンプルで間違いのない選択肢を選ばせることだ。それが、心理的に間違っていると感じていようが感じさせていようが、結果として一番良い結果・業績を産むアドバイスを出来るかどうかである。そのアドバイスに従って学生がやりきれるかどうかは学生側の問題で気にする必要はない。

そういったアドバイスの中で一番大事なのは最初に与えるテーマの内容である。
ラボの人数は60人くらいから全く学生がいないラボまで色々だが、日本のラボだと年間1,2報というラボがほとんどで多くて数報ではないだろうか。学生が多いために低インパクトファクターもかなり含めて十数報というラボもあるがかなり稀である。

ラボの人数は最低でもスタッフを含めて数人、5人くらいはいるはずである。
最近はやたらとSupplementary figureで実験量が増えたため一つの論文をまとめるのに数年かかることもかなりある。すると、5年間で5報くらいが最低ラインとして考えられる。

そこで、その5報のためにどんなテーマを与えたきた・与えるべきだろうか?

上記に挙げた事情からもやはりCell,Nature,Scienceを狙えた方が良いのは間違いない。実際は実験がうまくいかなくてどんどん下の雑誌に投稿するような内容になるのだが、全てがトントン拍子にいったときCell,Nature,Scienceが狙えるテーマであるべきだろう。

ところが、日本では未だにノックアウト作りがメジャーなアプローチであるため、もしかしたら凄いデータが出るかもしれないという博打テーマか、どんなに頑張っても学会誌に出せれば御の字というテーマが多い。お金のあるラボは学生の力業でもう一ランク上の雑誌に通るけれど、Cell,Nature,Scienceを狙えるテーマかどうかと問えばそうでない事が多い。

実験なんてものは最初に問題設定した時点でその重要度やインパクトは決まってしまうのだ。仮に予想外のデータが出たとしても、そこからが再出発点になるだけで最初のテーマはむしろ悪かったといえる。

一方、海外の一流のラボでは、最初の問題設定からCell,Nature,Scienceを狙ったものが多い。そのためにマテリアル作りは極力カットする方向でデザインされる。貰えるものはできるだけ貰う。それが作るのにどんなに時間のかかったものであろうと、その労力に対するリスペクト、クレジットは一切ない。どう話をまとめたかだけが評価される。

ということは、教授として望ましいスタイルはCell,Nature,Scienceが狙えるテーマを与えるということである。しかも、最低でも5年で5つ。毎年ひとつずつ増減するので翌年には最低1つは追加出来ないといけない。さらに実際は、もっと人数が多いし、必ずしも現実的でなかったり、問題が発生したりするので15個くらいは欲しいところ。


ということで、教授になりたい人、現在、教授に就いている人はまず最初にお金が際限なく使えたとしてCell,Nature,Scienceが狙えるテーマ5つを立てられるか、立てているか考えてみよう。

そこをクリアしたら、今度はストックとスペアのために計15個くらいに増やしてみる。これからポスドクをするという人はそのうち、最も確実に早く仕上げられそうな仕事を選んでそれが出来そうなラボにアプライしてみると良い。自分の分野を制限しなければしないほど、選べる選択肢は増えるはずである。

さらに今度は予算が制限されている中で出来そうなこと5つに絞ってみる。

これができないのなら教授になる(でいる)資格はない。
できていない教授は必ず裏で陰口を言われているはずである。


でも、意外とこれが出来ていない人が多い。学生さんもそうだろう。これが出来てしまうと、今の自分のやっているテーマがいかにしょぼいかわかってしまうからだw

身分の変化というのは意外とシームレスだからそうなる前からそういう訓練をしていないと早々出来るものではない。そういうことが出来ている海外のボスの下でCell,Nature,Scienceを2報出して、日本で教授になったけどその後鳴かず飛ばずな人が多いのはそれが出来ていないからである。

大事なのはそういう訓練をすること。そして、自分の分野を絞りすぎないことだろう。
論文を読む、最新の研究結果を知るという行為がそういう目的であると意識すると随分と見る目が変わるのではないだろうか。読んで、あぁそうなのかではなく、例え分野外でもそういうことなら次はこれをやれば、トップジャーナルに載るというところまで細かい実験計画を考えるわけ。PIになるということは、そういうことなのだ。