【コラム】科学者が政党の科学政策で投票先を選ぶのは全く意味がない

ポスドク問題、アカデミックポストの削減、給与の削減、雑務の増加、研究費の不公平な分配など日本のアカデミック界隈では暗い話題ばかり。

そんなわけで選挙に向けて、各政党に科学政策を聞いてくれている人がいます。
このこと自体は各政党に、あぁ、そういう票田もあるんだと自覚させて、それなりに何かを考えさせられるという意味で大事なのですが、その返事の内容にはほとんど価値がありません。

科学研究費は国家の支出の中でも1%程度の政治家にとって旨みも何もないどうでも良い予算です。増やすのかどうするのかと聞かれれば、そりぁ、できるだけ増やしますと答えるでしょう。予算の配分など細かいことも色々と(できるだけ票を獲得出来るように)適当に答えるとは思います。しかし、高々1%程度の予算のために政治生命をかけて頑張るなんて政治家はいないわけです。実際に当選したらほとんど官僚に丸投げ、あってもせいぜい高名な先生方に直接お伺いを立てて、より一層不平等な変な予算配分になるだけです。
それよりは実務を担当する官僚に直接訴え続ける方が意味があります。

それとよく基礎科学は大事だ。最近はすぐに効果が得られる分野や最先端の研究にばかり研究費が配られて地味な分野に配られないのはよくないという議論もありますが、言ってみれば日本はそれだけ追い込まれているという見方も出来ます。基礎科学は世界中どこでもやっています。世界に対する貢献が大事というのならお金のある中国、また、今まで通りアメリカがその分頑張れば良いだけのことです。むしろ、日本の伝統芸能など日本人しかその価値を認めないものの予算を大幅カットする方がよほど問題です。
研究の伝統が守られない。後続の研究者が育たないというのも、別にその分野で最先端のところに一人留学させて予算を付ければすぐに復活出来ます。

で、本題。例えば、基礎の分野を中心に科学研究費を5%まで増やしますという政党がいたとします。それだけばらまけばポスドク問題も不公平な予算も一気に解決するでしょう。
では、その政党に投票しますか?ということです。

もし、あなたがポスドクで、ほとんど仕事をしていない助教を恨めしく思っているなら、解雇規制解除をうたっている自民党みんなの党にいれれば良いのでしょうか?
逆にあなたがほとんど仕事をしていない助教なら、自分たちの身分を守ってくれそうな民主党共産党に入れればよいのでしょうか?

科学研究費は決してなくなることのない予算です。かといって、ばんばん増やせる予算でもありません。あくまで予算に余裕があったら増やし、国の経済成長が必要ならさらに増やすといった予算です。

一番大事なのは後輩や子供達の世代が世界に対して競争力のある研究ができる環境作りでしょう。そのためにするべきことは、絶えることのない安定した、できれば微増し続ける科学研究費の予算獲得でしょう。どのような政党が政権を握ったとしても、それに対する一番のリスクファクターは国のGDPそのものです。できるだけ借金を減らすようにして、日本のGDPを増やせる政策を実行出来る政党、そういう政策をうたっているのはどこかというのが一番見なければいけないところです。

参考データ:現在の科学・技術予算(科学技術関係経費)は3兆5723億円。対GDP比0.68%(2007年)で、これはアメリカ1.0%、イギリス0.76%、フ-ランス0.75%、ドイツ(連邦・州政府)0.77%(以上2007年、ドイツのみ2006年)