研究者は副業をするべき

日本の科学研究費は右肩上がりなのに、研究成果はむしろ下がっているという報告があります。これは、研究費そのものは上がっているが、独立法人化や財政難の影響で大学の交付金が減っているので実質的な研究費はそこまで増えていないというのもあるのでしょうが、本質的にはそれが理由ではありません。


理由は二つあって、一つは新しい事実を発見するには、よりミクロなモノを捕らえられる機器が必要なことが結構あり、そういった機器が1億円とかの金額になり、普通の研究費では買えないというのがあります。
そこまでいかなくても新しい技術のランニングコストはとにかくお金がかかるのです。
ただし、評価の高くなる研究の中でそういった高額機器を使った研究は1割もなくて、ほとんどのインパクトの高い研究で求められるのは学際的な仕事です。


学際的とは、あれやこれや色んなアプローチのデータが入っているモノです。そうすることで、主張したい仮説の裏を色んな角度から証明できて、信用されるわけです。


ところが、それらの色んなアプローチの一つ一つは新しい技術として昔はもの凄く高かった機器や試薬が普及品として値段が下がってきたモノたちです。とはいえ、機器になると数百万円するモノが多いです。


日本の研究者の一般的な研究費がいくらぐらいかご存じでしょうか?


文科省が配っているモノはここで調べることが出来ます。
KAKEN — Research Projects


採択数の多い基盤研究C、挑戦的萌芽研究、若手研究Bという枠は平均すると、年間100-150万円です。それらの採択率は平均すると20%前後です。
つまり、ざっくりいって研究者のうち研究費を取れているのは20%前後で、しかも、金額は多くて150万円ぽっちなのです。


これでは高額機器を多数利用した研究が出来ないのがわかると思います。


アメリカではどうなっているかというと、まず、研究費の金額がもう少し増えます。さらに試薬の値段が日本の半額以下。そして、一番重要なのは高額機器をいくつかのラボで共有する仕組みが発達していることです。


よって、今すぐ日本で出来る仕組みの改善方法は、
1)アメリカから直接試薬を輸入できるように予算の使い方の弾力性を上げること
2)機器の共同利用を義務づけること


例えば、抗体だとアメリカで260ドルのモノが日本だと6万円とかするわけです。直輸入しても送料は1万円程度でしょう。まとめて買えばさらに安くなります。


そして、もう一つが今回のテーマである副業です。


問題は二つあります。
一つは日本の研究者は副業や、研究を発展させた起業をとても嫌う文化があることです。


池谷祐二さんという脳神経科学者がいます。奥さんが元編集者ということもあって、本を何冊か出しているので知っている人もいるでしょう。
当然、印税などでそれなりの収入があります。ところが、こんな風に説明しないといけないほど、風当たりが強いわけです。
研究者のメディア活動について


彼のラボは今年Scienceというトップジャーナルに2報出していますが、日本の研究者でScienceに年間2報も出している人は5人もいないではないでしょうか。


これだけ業績を出しても、研究に専念すべきだというわけです。はっきりいうと、妬みと嫉妬が9割以上でしょう。


それでも、譲らない人がいます。
それだけ生産性の高い人は研究に専念すべきだというわけです。


でも、これって、生産性の高くない人は、研究に専念すべきでないということの裏返しですよね。しかも、日本の研究者のほとんどは予算の制約があるとはいえ、生産性が高くないわけです。



もう一つの問題は副業しても別に研究費が増えるわけではないことです。


そこで、そこに手を入れてはどうでしょうかというのが、今回の提案です。


研究者の副業を解禁・推奨して、その収入のうち10%を自分の研究費として使わなければいけないとするわけです。アイデアや技術のない人は共同研究として他の研究者にお金だけ提供するのでも良いでしょう。


昔は、研究者は起業するべきだと考えていましたが、起業なんて成功率は10%以下です。ただでさえ社会適応できないから大学に残ったという変人が多い研究者ですから、これでは路頭に迷う人の方が増えてしまいます。しかし、副業ならリスクも最小化できます。今ならサーバー一つ借りるのに月に1000円もあれば十分ですから、IT系の副業なら簡単にできるでしょう。何も数百万稼ぐ必要は無いのです。
そんな人は全体の5%もいれば十分です。


研究の社会への還元がよく歌われますが、ほとんどの研究はダイレクトにお金につながりません。しかし、最終的な小売りまで経験できれば、サブテーマとしてマネタイズにつながる研究は自ずと発展していくでしょう。


さらに起業してそれが大成功した人が、研究職を離れてくれると、ポスドクの就職問題も少し改善します。そういう成功例が増えていけば、日本の企業の博士を雇わないという文化も少しずつ変わっていくはずです。こいつらは金になるということをアピール出来るからです。