クロワッサン〜放射線によって傷ついた遺伝子は子孫に伝えられるのか

大方の意見が否定的なのは良いのですが、それでも間違った認識をしている意見がいくつかあったので、簡単に書いておきます。


『マイマイ新子』 — 高樹 のぶ子 著 — マガジンハウスの本

雑誌「クロワッサン」の「放射線によって傷ついた遺伝子は子孫に伝わる」という文言が話題に | スラド サイエンス


まず、根本的な「子孫に伝わるのかどうか」について。
これはメンデルの法則を考えれば、あり得ないのがわかります。


下の図で、一番右端のお父さんの一つの染色体に何らかの遺伝子異常を持っていても、それが子供に伝わる確率は1/2です。というのは、人は同じ染色体が二つあり、精子が出来るときに減数分裂で片側しか遺伝しないからです。


家系図.jpg


その次の子供への遺伝も同様の確率なので、1/4となり、その次は1/8となります。
つまり、どんどんその影響は薄まっていくわけです。


男性の染色体には、XY染色体というセットになっていないものがあるので、その染色体上の異常はそのまま伝わりますが、女の子にはY遺伝子がないので100%伝わりません。男の子だと伝わりますが、男と女の生まれる確率はほぼイーブンなので長い目で見れば、やはりどんどん薄まっていきます。


これは頭の良い遺伝子異常や、運動能力が異常に高い遺伝子異常があっても同じ事です。どちらかというと、発生異常を来さない良い方向の遺伝子異常の方がこんな感じで残りやすくなります。しかし、それでも、段々減っていきます。


さらに、もう少し細かく考えていきます。


体細胞は精子にも卵子にもならないので、遺伝することは100%ありません。
よって、影響を受けるとしたら、卵巣と精巣にある生殖細胞だけです。


しかし、以前説明したように、放射能によるダメージは、内因性の酸化ストレスによるダメージに比べたら、超微々たるものです。内因性が一日一細胞で50万個に対して、1Svで顕在化するダメージが約3000個です。単純に比例するとして、10mSvだと30個です(実際は比例しないので、もっと少ないです)。


DNA上の30億個ある塩基のうち、遺伝子は5%。そのうち、発現蛋白質の配列が変化するのは半分くらい。さらに蛋白質の機能に影響するのは数%ほどでしょう。さらにその変化が個体の異常として現れるのはもっと少なくなります。


というのは、受精後、人が赤ちゃんになるまで、それらの遺伝子はオンになったり、オフになったりしますが、機能的な異常があると、次のステップに進めずに結果流産となるからです。受精する前にも、精子卵子としての機能に異常があれば、受精も不可能になります。


で、その50万個のDNA異常も修復機能で元どおりになるのですが、男性の生殖細胞は分裂し続けているので、分裂時のDNA複製修復を使え、より安全です。
これは以前説明した子供の方が強いということと同じ理由です。男性の場合、50歳でもある程度安心して子作り出来るのもこれが理由です。


放射能障害に関して閾値あり説となし説に分かれる理由 - AMOKNの日記



一方、女性の場合、生殖細胞は成長後分裂しないので不利なのですが、喫煙、飲酒などに比べたら、影響は微々たるものだし、そもそも、女性の場合、一番影響があるのは加齢です。40歳前後の出産はそれなりの覚悟をもってしないといけません。


いずれにしろ、メンデルの法則からも放射能による何らかの遺伝子異常が子孫に伝わるのは天文学的な確率となります。



ここでの一番の問題は、ネットは接続しているけどほとんど使わない、携帯も友達とのやり取りはするけど、情報検索はしないという陸上の孤島に隔離されているも等しい、そのくせ噂話は大好きな主婦層に一方的に間違った情報が届けられることです。
先日の現代ビジネスは一応、ネットの情報だったので、まだネットで否定も出来ますが、こちらは雑誌であるため、情報の訂正が読者に届かない。まさに売らんがための最悪の炎上マーケティングだということです。

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