【コラム】低放射線長期暴露は体に悪いのか?

【コラム】武田邦彦氏がミスリードしている間違い〜低放射線長期暴露は体に悪いのか?


手元に何も資料がないので大雑把に説明してみます。


放射線が何故体に悪いのかといえば、それは単純にDNA傷害を起こすからです。


脊椎動物の細胞は太陽の放射線から体を守るために幾重もの防御機構を持っています。
ちょっとそんなには要らないんじゃないかと思えるくらいの多種多様な防御機構があります。

1) 細胞が分裂するときのDNA複製時修復機構
2) 次に分裂していないときに働くNER、BER、ミスマッチ修復など
3) DNAが絡まったときに働くと考えられるRecQファミリーによる修復機構
4) DNA二本鎖切断時に働く修復機構
5) 遺伝子が活性化しているときに働く修復機構


他にも新しい概念がいくつかあるようですが、詳細はここに載っていますね。
DNA修復 - Wikipedia



遺伝情報を保護するという意味ではDNAの複製時修復機構が一番重要ですが、成熟してもう分裂しない細胞もありますから、そういった細胞ではその機構は働きません。例えば、表皮の細胞とか、神経細胞とかです。


そもそも細胞はミトコンドリアでエネルギーを造り出すときに活性酸素を産生しますから、別に放射線があろうがなかろうが、これらの修復機構は必須です。




要するに大きな体を動かすためのエネルギー産生のために真核生物はミトコンドリアという原発を取り込んだようなものなのです。通常の解糖系ではATPは2分子しか作られないのに、ミトコンドリアのTCA回路を使うことによって、36個もATPを余分に作ることが出来ます。その代償が活性酸素ですが、活性酸素は同時に殺菌作用などでも働きますから、ただの産業廃棄物というわけでもありません。



放射線を浴びるとそういったダメージが少し増えると考えればよいです。



短期間に大量の放射線を浴びると、細胞は死にます。それはDNA修復が追いつかないからです。但し、すでに作ってある蛋白質が働きますから、DNA傷害直後に即死というわけではありません。細胞内にある蛋白質のストックが無くなった時点で飢餓的に死ぬわけです。ところが、細胞はそういった飢餓の状況にも対応する能力があって、外界からエネルギーが得られないとなると遺伝子発現を極力停止してエネルギーを使わない低燃費モードに移ります。



また、一方でDNA傷害が多いと、その細胞は使い物にならない、癌になる前に殺してしまえというシグナルが出て、細胞が自殺することもあります。こういった状態もエネルギーを枯渇させると、低燃費状態で自殺することもできなくなります。



それとは別に免疫反応により、傷害の多い組織や細胞を殺す反応が起こります。
これらも免疫抑制剤や低エネルギー、低体温などである程度防ぐことが出来ます。


いずれにしろ、新しい蛋白質の供給が無くなりますから細胞はそのうち死んでいきます。JOCの事故で亡くなった方が最後は顔の造形もはっきりしないような形になっていたのは、放射線を沢山浴びた体表面の細胞が死んで脱落していったからです。それでいて、免疫抑制剤や低体温などの処理がなされて個体死が阻止されていました。



さて、武田邦彦氏のコラムを読むと、年間こつこつ貯めて250mSv浴びるのが、あたかも250mSvを一気に受けたときの傷害を受けるかのような印象を受けます。
さらに内部被爆を含めると、3倍4倍と言うわけです。



しかし、上記のDNA修復機構の守備範囲、およびミトコンドリア活性酸素による障害の程度と比べてどうなのかというを考えた方が正しく理解出来ます。


つまり、甲状腺癌以外が統計学的に全く出てこないということは、そういった修復機構の守備範囲程度で大した問題ではないという可能性があります。


また、放射線によるDNA傷害がDNA修復機構を活性化して、他の原因で出来た傷害までまとめて修復促進してくれるという可能性もあります。これが、ホルミシス効果の実体かもしれません。
放射線ホルミシス - Wikipedia


そうはいっても、放射線があたかも何らかの毒物のように感じている人が一般には多そうです。そこで、提案なのですが、折角みんながSvやベクレルなどといった単位に詳しくなったのですから、逆に一般の生活上で受ける細胞障害をSv換算してみてはどうでしょうか。たばこなんかはわかりやすいし、飛行機に乗るリスクとかは死亡率で換算すればよいでしょう。



そうすると、自分たちがいかに危険な環境で生活しているか実感出来ることでしょう。