【コラム】液状化した音楽産業

インターネット時代になって、一番影響を受けた商いはやはり情報そのものを売り買いしていたもの。つまり、コンテンツ産業です。本、音楽、映像作品ですね。

今回は音楽について考えてみます。

本来、音楽は生で聴くものです。それに録音という技術が生まれて、さらにそれらをコピーする技術が生まれることによって誕生したのが音楽産業です。

ただレコードにしろ、CDにしろ、DVDにしろ、Blue-Rayにしろ、コンテンツに枠があったためにその容量に合わせて長さや音質・画質に制限がありました。
ネットもそこまで伝送量が稼げるわけではないので、その制限自体はむしろもっときついくらいです。しかし、一番異なるのは長さや量を自由に切り貼りしてサイズを変えられるところです。

今まで固体としてしか扱えなかったものが液体として扱えるようになったというのが一番の違いなわけです。

固体が液体になるとどうなるか。

まず一つは、Googleによる検索技術のおかげもあって、リーチが最適化出来ます。欲しい人に欲しい情報を届けられるようになる。ところが、まだ固体の流通が生き残っていることと、マネタイズの体制が確立していないため液体化されたにもかかわらず、固体の箱に入れられたままの状態というのが現状。
これは以前指摘した問題。
【コラム】Taylor Swiftと日本の音楽ビジネスについて
http://d.hatena.ne.jp/AMOKN/20101228

液体化して量り売りが出来るようになったのに、量り売りをするシステムがない。さらに言うと、それを促販するシステムも整っていません。この点については後日また書きます。

また、もう一つは中にスペース(中抜き)が一杯あった固体の積み上げから、液体化することによってスペースが無くなり、全体として売り上げが減りました。今までは無駄だと思えるコンテンツ(例えば、アルバムの捨て曲)があったとしても、箱売りだったのでそれを買うしかなかったわけだけど、液体化して好きな部分だけ買えるようになったため、CDの売り上げは落ちました。

その代わり、著作権収入は増えています。とはいえ、トータルでのパイは大きく減っています。

もう一つの問題はフリーコピーの問題です。
ここで二つの立場が考えられて、一つは音楽は本来生で聞くべきものなので音質も悪いデジタル商品は宣伝と割り切ってしまえというアプローチです。ライブとマーチャンダイズで儲けていこうというのがこのアプローチ。AKBの握手券もまぁ、ちょっと形態を変えた生重視の売り方です。

しかし、人や人気には寿命があるし、再現出来なかったり、公演の会場の大きさの問題から生で売れない音楽もあります。中堅どころや、売れないアーティストではチケット代も設定出来ない場合もあります。

ここは結局、技術的な問題で、レコードやCDに価値を付けたのが失敗の元でした。本来、音楽の情報そのものに価値があるわけだから中古屋なんて商売はありえないはずだった。しかし、流通形態が固体であったためにものに価値がついてしまった。

では、どうするべきだったのか。どうするべきなのか。

一つは再生機を独占して、クラウドに持ってくるということ。AppleiTunes戦略がこれに当たります。

あとはPCで読み込み出来ないフォーマットにしてしまうというのがあるのですが、これは必ずいつかPCで読み取る技術が出てきてしまうし、最悪アナログ録音されてしまいます。
その意味で、レコードやカセットのアナログ時代はあれで良かったわけです。
ということは、逆転の発想で、コンパクトなアナログ信号にしてしまうという方法があります。イメージ的には爪楊枝サイズのレコードです。デジタル信号は入っていなくてアナログのみ。
ただサイズ的にHDDやSSDには勝てないから無理ですね。
とはいえ、これもフォーマット変換の一環ですから、ネット接続に認証を義務化することで出来る可能性もあります。


結局、再生機、もしくは再生ソフトを配信側が独占する仕組みを作らないと駄目ということです。あとはデジタルデータに個人認証のシグナルを混ぜることでオフラインによる再生でも対応出来るようにする手もあります。CCCDの悪夢が蘇りますが、そこは逆にCDという固体を捨てることで対応出来ます。


いずれにしろ、液体化して必要な情報を適正な価格で提供出来るようになったのにそれを活かすシステムを作れていないのが問題であり、大きなビジネスチャンスに日本のメーカーが食い込めていない状態ということです。全体的なパイが減っていることに関しては、以前なら確実にある程度売れるコンテンツを用意する必要があって、絞っていたラインナップを拡大することで対応出来ます。コンテンツの量を増やせばそれだけパイが上がるというわけです。

但し、そういったコンテンツにも質は要求されるので、これから一番儲かるのは質を担保する役割の人達です。プロデューサーであったり、エンジニアの人達になります。また、そういったコンテンツを安く流通させる仕組みを作った人達も儲ける事が出来ます。AppleAmazonが既にやっていることですが、GoogleFACEBOOKもやろうと思えば出来るだけの資金は持っているし、実はそれ以外の企業もコンテンツ側を取り込めれば出来ます。

自分の考えているビジネスモデルとは違うけど、別のアプローチから色々取り組んでいる人達がここで紹介されています。
http://techwave.jp/archives/51583612.html