【コラム】上司(PI)の存在理由を理解していない日本の管理職の欠点

日本におけるビジネス上の問題とアカデミアの問題が非常に似ていることは以前書いたけど、それを並列して書いてみることにする。その上で、何が問題で、どうすればよいかを明らかにしていこう。
ビジネスが赤で、アカデミアが青ね。


上司は何のために存在するんだろうか?
経験豊かで、情報のハブになっている人物が適切に仕事を振り分けることで円滑かつ効率的に仕事を進めるためだろう。結果、一人では出来なかったような新たなビジネスで1億円の売り上げ(仕事によって金額や内容は変えて読み取ってください)をあげるようになる。

PIは何のために存在するんだろうか?
経験豊かで、情報のハブになっている人物が適切に仕事を振り分けることで円滑かつ効率的に仕事を進めるためだろう。結果、一人では出来なかったような新たな研究でNature, Science, Cellに載るような仕事を導き出す。

情報のハブとはどういうことだろうか?
会社の上層部の考え、系列会社にある新しい技術の情報、取引会社の要望などを接待や会議を通してサルベージして、求められる、または新たな需要を開拓出来るビジネスを現場に持ち込める一番の立場にあるということ。

情報のハブとはどういうことだろうか?
税金で毎年数回国内外の学会に参加することで、まだ世界に発表されていない最新のテクニックや結果に触れ、それをやっている人と知り合いになることでいち早く最新かつインパクトのあるテーマを思いつける立場にあるということ。


さて、何故、同じ会社の中で経理や営業、現場など次々と仕事の場が変わって、スペシャリストを集めた集団でのビジネスを展開しないんだろうか?
これを日本の会社の欠点という人もいるけれど、本来の目的は一人一人が社長になれる可能性を残すためだよね。言い方を変えると、一人一人が出世したり、起業したりして社長になったときに会社の全体像を把握しやすくするためであり、そのためには現場で大きな成功を繰り返す実績が必要になるだろう。


さて、スペシャリストを集めて研究を進めた方が実験に失敗する回数も減って、効率良く研究が進むはずなのに、何故、日本のPIは自前主義で一人一人に全ての実験をさせようとするんだろうか?
これを日本の研究システムの欠点という人もいるけれど、本来の目的は一人一人が将来PIとして独立する可能性を残すためだよね。言い方を変えると、一人一人がしっかりした業績をだして、PIになったときに研究の全体像を把握しやすくするためであり、そのためには若い頃に大きな成功を繰り返す実績が必要になるだろう。


そのために上司がやるべきことって何?
自前主義のもの作りを進めることなの?
大きく儲けることが目的なので、自前のシステムやもの作りに拘る必要はない。一番大切なのは成功する確率の高い案件を部下に割り振ること。もの作りはその枠組みの中で必要なら組み込んでいく。決して、今持っているものや技術を活かそうとしてシステムを組んではいけない。まず、成功率の高いモデルを作って、それに必要なら使う。必要ないなら使わない。その上で、必要なら部下にもの作りに取り組ませるべき。


そのためにPIがやるべきことって何?
自前主義のマテリアル作りややってきたタンパク質の研究を進めることなの?
インパクトのある研究をすることが目的なので、やってきたタンパク質やマテリアル作りに拘る必要はない。一番大切なのは成功する確率の高いテーマを部下に割り振ること。もの作りはその枠組みの中で必要なら組み込んでいく。決して、今持っているマテリアルや技術を活かそうとしてテーマを組んではいけない。まず、成功率の高い研究テーマを作って、それに必要なら使う。必要ないなら使わない。その上で、必要なら部下にもの作りに取り組ませるべき。


使えない部下ばっかりで、まともに仕事が進まないんだけど?
どんなに新しいひらめきに欠ける能力の低い部下でもこつこつやれば絶対成功するようなモデルを作らない上司が悪い。誰でも取り組めば、成功するようなモデルにしてから降ろすこと。部下の運や新しいひらめきで化ける可能性があるような案件を与えてはいけない。

使えない部下ばっかりで、まともに仕事が進まないんだけど?
どんなに新しいひらめきに欠ける能力の低い部下でもこつこつやれば絶対成功するようなテーマを与えられないPIが悪い。誰でも取り組めば、成功するようなテーマにしてから降ろすこと。部下の運や新しいひらめきで化ける可能性があるようなテーマを与えてはいけない。


ちょっっっっっっwwwwwwww、それって、どんな案件よ!
例えば、もし、会社の会長のお孫さんがお忍びであなたの部下に配属されたとする。あなたの上司や周りの人は誰もその事実に気付いていない。しかし、あなたはたまたま個人的な趣味のつながりでその事実を知ってしまった。しかも、本人にはそのことを気付かれていない。その時、あなたは彼にどんな仕事を任せますか?他の社員と同じくらい苦労はするけれど、一番失敗する確率が低い案件を任せるはずです。そういう気持ちで全ての部下に仕事を割り振れば良いわけ。

ちょっっっっっっwwwwwwww、それって、どんなテーマよ!
例えば、もし、学会の会長のお孫さんがお忍びであなたの研究室に配属されたとする。名字が違うため周りの人は誰もその事実に気付いていない。しかし、あなたはたまたま個人的な趣味のつながりでその事実を知ってしまった。しかも、本人にはそのことを気付かれていない。その時、あなたは彼にどんなテーマを与えますか?他の学生さんと同じくらい苦労はするけれど、一番失敗する確率が低くて大きく成功しそうなテーマを任せるはずです。そういう気持ちで全ての学生に仕事を割り振れば良いわけ。


できないって?
つまり、あなたは自分の仕事の意味を理解していないって事よ。
会社の中で自分の地位が比較的高いから、てっきり自分は偉いと思っているのかもしれないけれど、あなたの仕事は未来の社長を育てることなの。そして、それは別に今いる会社の社長だけとは限らない。起業した会社かもしれないし、系列会社かもしれない。
何故、あなたは一番上下の情報にアクセス出来るポジションにいると思っているの?
それはあなたが適切に仕事を作って、見出すためなのよ。

できないって?
つまり、あなたは自分の仕事の意味を理解していないって事よ。
大学の中で自分の地位が比較的高いから、てっきり自分は偉いと思っているのかもしれないけれど、あなたの仕事は未来のPIを育てることなの。そして、それは別に今いる大学のPIだけとは限らない。留学して海外でPIになるかもしれないし、もしかしたら、アカデミアでなく、就職するかもしれない。それでも、もし、彼や彼女がアカデミアに残る意志が少しでもあるなら、PIになれる可能性が高くなる、つまり、Nature, Science, Cellが狙えるテーマを与えなくてはいけない。地味な基礎研究も必要と言い訳する人もいるけれど、そんなものはアカデミアに残るつもりのない人やテクニシャンにやらせるか、セカンドテーマとして合間にして貰えばよい。あなたの一番の仕事は人を育てることだから。
何故、あなたは一番最新の情報にアクセス出来るポジションにいると思っているの?
それはあなたが適切に最新のインパクトのあるテーマを作り出すためのなのよ。



日本にはリーダーが足りないという。
孫正義が出てこないという。
孫正義はたまたま出てきた天才であり、そういう天才が出てこないという。
違うのよ。
リーダーは育てるものなのよ。徹底した成功体験と回避出来るリスクを体験させること。
その積み上げの上に確実にリーダーは誕生する。
一人一人を社長候補として育てること、それが上司に求められること。
日本には日本の良さがある。全員一緒じゃなきゃ嫌々という平等主義があるなら、逆に全員が社長になれるようにすればよい。そういう覚悟を上司は持つべき。




日本には高インパクトを連発するPIがほとんどいないという。
利根川進が出てこないという。
利根川進はたまたま出てきた天才であり、そういう天才が出てこないという。
違うのよ。
PIは育てるものなのよ。徹底した成功体験と回避出来るリスクを体験させること。
その積み上げの上に確実に優秀なPIは誕生する。
一人一人をちゃんとPI候補として育てること、それがPIに求められること。
日本には日本の良さがある。全員一緒じゃなきゃ嫌々という平等主義があるなら、逆に全員がPIになれるようにすればよい。そういう覚悟をPIは持つべき。




おまえはできるのかって?
できないことに気付いたから、考えを改めているところw