【コラム】実は日本にポスドク問題は存在していない、あるのは…

存在していないというのは言い過ぎですが、ポスドク問題をポスドク問題として認識するのは間違っているとは言えるでしょう。

日本に比べてアメリカの研究者がイタクない理由、それは大学に勤めなくても他に職が沢山あるからです。

日本ではアカデミックポストに就けなければ、即ニートに近い状態になりますが、アメリカではやりがいは少し落ちるけれど、比較的科学に関係した職が段々畑のように用意されており、その人の実力に従ってそれを降りていけば良いようになっています。日本みたいに道を外れたら即崖っぷちということはない。
もちろん、できるだけ高い位置に残ろうと必死に頑張るけれど、そこには自分の全人生をかけてというような悲壮感や追い詰められた感じはあまりありません。

そういう状況の理由として日本では会社がポスドクを雇わないという問題があり、一般にポスドク問題と呼ばれています。

しかし、そもそも20歳代前半で、しかも、自らの好みで選べたわけでもない、どちらかというと消去法的に選んだ会社で60歳過ぎまで働くなんてぞっとするというのが普通の感覚だと思うし、だからこそ就職せずにとりあえず大学院に行く学生が増えたわけでしょう。

もちろん、そのためにはポスドク1万人計画でそれだけの数の大学院生を受け入れるためのキャパがあったと言うのも理由となります。これを行き先の無いどうしようもない学生が院に進む原因となったと指摘する向きもあります。確かに先行きの暗い院に進むのは先見性のない選択だし、現時点では社会的にも金銭的にも非合理な選択でしょう。
しかし、普通に就職するのがベストアンサーかというとそうでもありません。
甘えであることに代わりはないのかもしれませんが、いつ潰れるかわからない会社の社畜になりたくないというもがき自体は実は無自覚であるにしろもっと先見性のある行動です。

もし、日本の会社である実験の系を立ち上げる必要があって、しかもそのエキスパートのポスドクが職を探していたとします。
それでも、よほど難しい系でもない限り、殆どの場合は自前の社員でその系を立ち上げるでしょう。テクニカルサポートにかかる金額がその人の年収分くらい必要でもやっぱり雇わないと思います。
なぜなら、その人を雇うということは既存の社員の仕事を奪うということであり、もし、その系が必要でなくなった後もその人の面倒を一生見続けるということだからです。

ポスドクを雇いたくないから雇っていないわけではなくて雇えないから雇っていないという面もあるわけです。必要なときに必要なだけ入れたり出したり出来たらそっちの方が効率的です。しかし、それは日本ではできません。それは解雇規制があるからです。


要するにこの問題はポスドク問題ではなくて、解雇規制の問題なわけ。
解雇規制が解決することなしに、ポスドク問題が解決することはない。
つまり、ポスドク問題は解雇規制の枝葉の問題に過ぎないということです。
ということは、ポスドク問題「だけ」を解決しようともがいていることがいかに滑稽がわかると思います。そんなアプローチは議論すること自体無駄でしょう。


ところが、解雇規制が問題とわかっていても、何となく左巻きの考えがしっくりおさまる我が国では解雇規制を完全に外すことは風土に合わないのも事実。

よって、考えるべきは日本の風土にあった解雇規制緩和の方法ということになります。
そうすれば、問題を一般化出来ますし、理解も得やすくなります。

だって22歳で自分に合った会社を選択出来るわけがないし、そもそも生きている間にそういう会社も変わってきます。
つまり、ほとんどの日本人にとって今の状況は不幸でしかないと思うのですよ。

誰だって、もっと自分にあった仕事がしたいなぁと思っているはずです。でも、現時点では、保険や社会保障費、さらには一度失敗したら二度と立ち上がれない社会性からなかなか離職することができません。

しかし、生産性ということを考えると、適材適所ほど効率化できる術はないでしょう。

ということは、ポスドク問題を解決しよう!!なんてシュプレヒコールは全く意味がなくて、叫ぶなら解雇規制を撤廃しようとか、緩和しようといった方が効率的です。

といっても、ポスドク問題に関わる人口比なんてたかがしれています。解雇規制の問題も正規雇用されている人や公務員にとってはやぶ蛇というものです。


それでも、団塊の世代が丸ごと退職し、公務員の新規雇用が削減され続けていけば、そのうち既得利権側の正規社員や公務員の数が非正規社員より遙かに少ない時代がやってきます。

選挙は勝ってなんぼですから、その時一気に解雇規制が緩和されるはずです。
そのため、まず今やるべきはどのような解雇規制緩和が望ましいかの議論であり、中長期的にはそういった解雇規制緩和に対して個々人がどう対処するか検討することです。

解雇規制が緩和されれば、ポスドク問題は問題と言えるほどの問題にはなりません。
但し、だからといって、毎年余っている8000-10000人の博士が彼らの希望する職種につけるということではありません。

何故なら、ポスドクの人と競争する相手は既に企業に勤めていて、企業のやり方、企業内での立ち振る舞い方を身につけて、かつ企業における実験のやり方にも習熟している人でより良い職場を求めている達だからです。業績は全く役に立ちません。

ところで、解雇規制緩和は実は既にアカデミックポストについている人にも適用されます。
そうすると、席が空いてチャンスが増えるわけだから、今まで通りアカデミックポストを狙って精進するという選択肢と、解雇規制緩和で企業に勤めたり、起業するチャンスを狙うという選択肢の二つが生まれます。解雇規制緩和規制緩和の中でも比較的手強い相手なのでそんなに早くは実現しないでしょうが、どういう選択肢が望ましいか次に考えてみます。