【コラム】研究者の生産性を上げるための大学改革 後編

さて、続きです。

若手はテニュアトラックを増やして欲しいと言う。実際、助教の募集には例え億単位の研究費を稼いでいるラボであっても2,3人しか応募がない。ところが、数百万の予算しかつかなくても独立職であれば100人くらいの応募がある。それだけ若手は独立したいと願っていてかつそういうポジションが全く足りていない現実がある。

一方、現在教授として働いている方としてはばりばり仕事をして自分より業績を上げそうな人には教授にはなって欲しくない、できれば、自分より仕事ができなくてかつ政治的に自分のいいなりになる人の方が望ましいと考えている。仕事が出来る出来ないかはともかく政治的に自分の属するグループに従順な人の方が選ばれるバイアスは必ずある。そういう人達が大学の運営にも責任を持って取り組んでいるわけだから生産性が上がるわけがない。

しかし、テニュアを増やした方が良いというのは抵抗することの出来ない自然な流れである。そのため、実際に大学がしているのは2パターンある。
テニュアの枠を3つくらい作る。実際、そこには業績のある人達がやってくるのだが、同じ大学の出身者でないので大学内にコネが全くなく、かつ既存の教室と分野がかぶらない人が選ばれる。大学としての業績は上がるが、人が集まらないので既存の教室を圧倒するほどの業績は出ないようになっているのである。
もう一つのパターンは、頭数は沢山用意するけど、スペースもお金もかなり制限されたポジションというものだ。スペースもお金もないので業績もあんまり出ない。でも、テニュアは作ったよというアリバイ作りは出来る。さらにやっぱりテニュアなんて全然駄目じゃん。元の講座制に戻すべきという筋書きもできるというわけである。

つまり、テニュアを作ることは若手にはメリットだが、教授にはデメリットでしかないわけ。これではテニュア制度は絶対根付かない。それにそれぞれのテニュアの人が一つのラボスペースを持って、よく使う機器をそれぞれが購入して、それぞれが秘書さんを雇っていてはあまりにも無駄が多すぎる。

さらに実を言うと、テニュア的な枠を作るくらいなら、退官した教授に特任教授として働いて貰った方が大学としてはメリットがあるという問題があります。それなりに頑張り続けた教授だと業績的にはテニュアでは全く歯が立ちませんから1億くらいの予算は取ってこれるわけです。その分大学の間接経費による収入が増えますし、ネームバリューがあれば授業の魅力を上げることが出来ます。普通基礎系の教授は退官してしまうと行き場所が無くて困ることがあるのでこういう制度は大歓迎。その代わりその分テニュアの枠が無くなるし、スペースもなくなります。実力主義を通してしまうと、業績のある年寄り教授の方がより優位になりますます若手の職がなくなるという悪循環に陥る可能性があるわけです。

そこで、考えたのが別の方法。

アメリカのように教授の上にChairmanを設けます。Chairmanになれるのは60歳になってからでかつそれなりの業績が必要とします。アメリカのChairmanはある分野のトップですが、日本でそれをするのは無理なので副学部長くらいのポジションで受け持ちの教室を割り振られる感じ。但し、権限は大きくします。教授のクビを切れるようにするとこの制度の導入は無理になるので教授は安泰。但し、それ以下の人事に関して裁量権を与えます。といっても、お金を十分取ってきている教室はその限りとしません。間接経費でポストを買えるような制度にします。Chairmanの任期は5年、60-65歳です。その間に規模に見合った業績を上げられなければクビ。この年齢ならクビになっても大丈夫です。業績が上がれば、さらに65-70歳まで続けられてさらに5年ごとに更新可能とします。但し、前期を越える業績が必要とします。業績が上がらないとクビになりますから、教授以下の人事に優秀な人を引っ張ってくるインセンティブが働きます。もちろん、既存の人の方が業績が上であれば問題は無いわけです。一方、教授にしてみれば、身分は保証された上将来Chairmanとして大学に居座り続けられる可能性があるわけですから比較的抵抗は少ないはずです。Chairmanを中心に研究発表の場を設けて、教育効果を高めさらに機器の共有化を進めます。准教授以下も完全なテニュアではないですが、業績が上がるなら自分のテーマを追求して良い立場になりますから今よりも生産性は上がるでしょう。問題は教授より下をクビにできるかどうかが、公務員の数を減らす問題とリンクするところです。よって、クビではなくて降格とするか、そもそも現在でも任期制が導入されているのでそれを厳密に適用するかです。