放射能障害に関して閾値あり説となし説に分かれる理由

この記事は大事な論点が網羅されていて素晴らしいんだけど、ちょっと詰め込みすぎ。
【オピニオン】石炭は核よりも危ない


その中でも閾値あり説、なし説について今回は説明していきたいと思う。


以前説明したときより、もう少しわかりやすい図を思いついたので、それを使って説明します。


まずは、子供、大人、老人の違いについて。
以前説明したように放射能によるDNA障害を修復する機構は複数あり、特に細胞が分裂するときのDNA修復はずば抜けて性能が高いのです。



その理由は細胞が分裂するとき、DNAは最も無防備になるからです。
DNAは非常に長い糸状の構造物で、ふだんはあみものの毛糸のだんごのようになっていますが、細胞分裂するときはこれが完全にほどかれます。


放射能は光と同じ性質がありますから、毛糸に懐中電灯で光をあてることを想像すれば、毛糸のだんごより、ほどかれた状態の方が、光(放射能)がより多くあたることがわかると思います。


下の図で、尖っている部分が細胞が分裂しているときです。細胞分裂数は、大人になればどんどん減っていきますから。大人はその数が少ないのがわかります。


子供大人老人.jpg



黄色が内因性の酸化ストレスによるDNA障害。青いのが、生活習慣などによって増えているDNA障害です。横軸は時間です。


実線がDNA修復能力です。分裂時の後の方が先が尖っているのは、分裂終期にさらに別の修復機能が働くからです。



分裂しているときは無防備なので、それだけダメージが多いです。
そのため、ダメージ総量は子供の方が多いのがわかります。子供の方が感受性が高いという説明はこれを反映しています。
一方、大人はお酒やたばこをのむので、青い部分が子供より多いのがわかります。


しかし、細胞分裂時の細胞修復機能は通常の100-1000倍高いので、そんな障害も軽く修復してしまいます。放射能障害についてのほとんどの説明で欠けているのは、人のDNA修復能力は桁違いに高いという事実です。


ここでDNAの修復能力の余力は、DNA修復能力の実線と、色がついたDNAダメージ部分の差分になります。


また、分裂時でないベースのDNA修復能力に関係する遺伝子も徐々にダメージを受けますし、余分な蛋白質が細胞内に貯まってスムーズに活動出来なくなるため、年齢が上がる毎にその能力は落ちてきます。


子供の方が強いというのは、この余力が子供の方がはるかに高いからです。
ちなみに子供のガン治療における抗がん剤の体重あたりの投与量が大人より高い場合があるのは子供の細胞の方がそれだけDNA障害に強いことを反映しているんでしょう。(主な抗がん剤はDNA障害を引き起こしてがん細胞を殺します。)


一般的には小児の方が放射能に強い (1/2)


一つの細胞が一日でうけるDNAダメージは50万個と推定されています。子供に関しては、子供の感受性が数倍という数字をとって、一日250万個ではあまりにも高すぎるので、恐らく子供120万個、大人40万個といったくらいの数字が妥当なのかもしれません。


いずれにしろ、それらのほとんどは修復されています。


もし、子供のDNA修復能力が大人と同じでは、がんが発見されるのに10年かかるとして、20, 30代に癌のピークが来ないと変ですから、子供の方がDNA修復能力が高いことがわかると思います。



さて、細胞に1Sv (1000mSv)の放射能をあてると、およそ3000個のDNAダメージが出来るそうです。



http://asrc.jaea.go.jp/soshiki/gr/mysite5/index.html



これは、内因性のDNAダメージが50万、1Svの放射線によるダメージが3000という意味ではなくて、50万のダメージを軽く修復できるDNA修復能力の余力をもってしても修復出来なかったダメージが3000個あったという意味です。


放射能によるDNAダメージは細胞の状態が同じであれば、綺麗に比例します。これは確実に言えることであり、ダメージ比例派の根拠となっています。


しかし、DNAダメージは修復されるわけです。


絵に描くとこんな感じです。


実際のDNAダメージ量.jpg



右の図が修復された後に残っているDNAダメージの量ですが、見てのとおり、閾値を越えると放射線の量に比例して増えていきます。これが閾値アリ派の根拠となります。


では、何故、閾値アリ派が採用されなかったのか?
二つポイントがあります。


ひとつは先ほど述べたように、年齢によってDNA修復能力の余力に違いがあるからです。図に書くと、こんな感じ。


子供大人老人のDNAダメージ.jpg



右の図の下の矢印が閾値ですが、年齢によってその値がまちまちになるのがわかります。


さらにDNA修復蛋白質の発現量は組織によってばらつきがあるので、臓器によっても閾値は変わってきます。



もうひとつの理由は、たとえ閾値以下の放射線量であっても、やはり放射線量に比例してDNAダメージはわずかながら残るからです。但し、その傾きは右の図のように非常になだらかなものです。


よって、一番正確な表現は


放射能によるダメージは閾値を境に比例係数が大幅に変わる


です。


ちょっと長くなったので次回は、何故、DNAダメージがわずかながら残るのかについて説明したいと思います。