【コラム】日本の科学のレベルが低い理由とその問題を解決する方法

昔書いたコラムが半分炎上みたいになっているので、少しインスパイヤされたことを書いてみる。

近年、日本の科学分野に投入された金額と人数は漸増しているにもかかわらず、その成果が落ちていることが指摘されている。理由はいろいろあるのですが、細かい制度的な部分はざっくり省いて大局的な事だけ書いてみます。
http://viking-neurosci.sakura.ne.jp/blog-wp/?cat=37

研究成果はその内容だけで評価されて、科学雑誌に載るわけではありません。
実際はアメリカを中心とした科学者のコミュニティーがあって、そのトップの研究者の間のネットワークで強力に守られたギルドが掲載する論文をコントロールしている面があります。
例えば、雑誌によっては競争相手を指定して査読に回さないでくれと申請出来るようになっています。確かに編集者はその競争相手に論文を送ることはしないでしょう。しかし、代わりに査読を頼んだ相手がその人と知り合いや友達だったら間違いなくその論文はその競争相手の手に渡ります。昔は電話でそんな連絡をしていたので内容が口頭で伝わるだけでしたが、今はメールなので論文そのものも回されてしまうわけです。

その結果、異様に長い査読期間を待たされたあげく落選の報告があり、ほどなくして同じ雑誌にそのライバルから短い同じような内容の論文が発表されるなんてのがよくあるわけです。

また、同じような内容を同じ雑誌に出した場合、当然日本人の方が英語が下手ですから、それを理由に切られることもあります。雑誌によってはご丁寧にも「日本人」の投稿者はネイティブに論文を見てもらうようにと書いてあるところもあります。
そのため、同じような内容だった場合、欧米のラボに比べて2倍から3倍近い実験量で圧倒しないと勝てないというのがあります。実際、欧米のラボに比べて日本のラボから出る高インパクトファクター雑誌に載る論文は実験量が半端ではありません。

とはいえ、仕事の評価はいかに高インパクトファクター雑誌に論文を載せるかで決まってきますからどういうことになるかというと、日本で教授の座を得るヒトは二パターンに分かれます。

一つはそういったギルドの目に付かないニッチな仕事で先行逃げ切りの仕事を出来た場合。
極端な例ではiPS細胞の仕事がそうです。誰もしないような仕事、でもインパクトがある。そういった仕事でのし上がるパターンで、マネされにくい仕事であればあるほどそれだけ業績が出せますから大きなラボに発展出来ます。結果、世界的に有名なラボにもなりますが、世界の全体的な潮流からは外れた仕事なので、お弟子さんが日本で独立すればするほどガラパゴス化が進みます。

もう一つは、欧米でそういったギルドのラボに留学して、トップジャーナルに載って凱旋帰国し教授になるパターンです。その後、鳴かず飛ばずなヒトがほとんどですが、ギルドのコネクションを活かせば少しランクは落ちますが同じような仕事をトップジャーナルに載せることが出来ます。欧米の大学では前のボスとの共同研究は評価されませんが、日本ではそうではないので十分評価されるし、その仕事は世界の潮流に乗っているので外から見ると結構派手な仕事に見えます。

もちろん、そういった流行の仕事で純粋に日本の中だけでやられる仕事もあります。但し、先に書いたようにその実験量は欧米の2,3倍になります。

さらに悪いことにポスドク問題で留学すると日本に帰って来られない。数少ないポストも日本のビックラボ出身のヒトが留学することなく埋めていくという流れがあるため、結果的に留学するヒトが減る。また、行ったヒトも日本に帰るのを諦めて欧米で職を得るという流れがあります。特に最新技術を使った研究はお金もかかりますから日本ではそんな駆け出しの研究者にお金は出されません。結果、優秀なヒトほど欧米に残る傾向があります。

すると、先に挙げたギルドとつながったラボに行くヒトが減るし、行っても日本に帰ってこないということになり、日本のガラパゴス化がさらに進むことになります。

この問題を解決する方法。
欧米のギルドを破壊するのは不可能です。
それに従うしかありません。そのため、ギルドとつながりのあるヒトを積極的に日本で独立させ、かつ欧米に再度短期で出張させてギルドとのつながりを保つようにさせること。

また、欧米で成功しているニッチな分野や最先端の分野の日本人研究者に兼任のラボを国内に作ってもらうことです。そうすれば、世界最新の研究の潮流に学生が触れることが出来ます。

これで一応、見た目上の成果は少し上がると思います。本質的ではないのですが、そもそも科学の世界自体がかなり怪しい世界なので仕方ありません。