【コラム】放射能から守るべき遺伝子の塩基数はどれくらいか?

日本全国の大学には、医学部だけでも放射線基礎医学とか、放射線科といった部門があり、その他にもDNA修復を研究しているラボはそこそこあるわけですが、何故かそういったところが一般向けに説明したサイト情報がはてブ2chに挙がってくることがありません。別にそういった部門が独自にする必要はなくて、そこを中心に大学や大学病院で説明するサイトを立ち上げても良さそうなものですが、事なかれ主義で誰もしていないようです。これでは給料泥棒と言われても仕方ないですね。



わかりやすいかどうかはわかりませんが、物言わぬ科学者がイメージしている放射能ダメージについて解説していくことにします。



一般的にものを言っている人は早見教授にしろ、武田氏にしろ、放射能を受けた生物がどのような反応を示すかといった言わばwetな研究をしている人じゃなくて、その外側のdryな研究をしている人達で、放射能の実害のイメージをあまり正確に持てていないように見受けられます。



さて、ゲノムはA, G, T, Cの四つの塩基が並ぶことで意味をなしているいわばヒトの設計図です。AはTとGはCと塩基対をなすことで互いに情報を補えるようになっており、さらに染色体は2本ずつあるので、実際は一つの塩基情報は男性のXY染色体を除くと、4つコピーがあると言えます。つまり、RAID1をハードディスク4つで組んでいるとイメージして貰ったらよいです。それらは一部の情報が損失したり、破壊されたら、残っているコピーを参考に自己修復する機能があります。ハードディスク4つでRAID1を組んでいるというだけでも結構安全そうでしょ。正確には違いますが、その4コピー全部を破壊する放射能がだいたい1-3Svくらいとイメージしておけば良いです。



ヒトゲノムの総塩基対は30億個ですが、蛋白質の情報が入っている遺伝子はそのうち、25%から5%という話があります。遺伝子の数は3万前後です。
%の開きは恐らくイントロンを含むかどうかの違いでしょう。
イントロンとは一つの遺伝子が複数の機能を持てるように合体ロボのようにABCDEとパーツに別れていて、そのパーツとパーツの間をつむぐ部分です。蛋白質の情報は入っていないので、意味がないものと思われていましたが、最近わかってきたのは、極々一部にnon-coding RNAがコードされていたり、イントロン自身が遺伝子発現を調節している場合があります。但し、そこに少しDNA変異が入ったところでほとんど影響がないことに変わりはありません。


変異が入るとまずいのは、遺伝子の情報がコードされている部分です。つまり、5%の部分です。


ところで、遺伝子は三つの塩基の組み合わせでアミノ酸の配列を決めています。
コドン表というものをみれば、どの組み合わせがどのアミノ酸かわかります。
コドン - Wikipedia


これを見ればわかるように三つの塩基の内最後の一つはどの塩基になってもほぼ同じアミノ酸情報になることがわかります。実際は、それを読み解くtRNAの存在量によって、最終的な蛋白質の発現量に影響するのですが、まぁ、せいぜい10-20%変わる程度ですからほとんど影響ありません。


つまり、変異が入るとアミノ酸が変わる遺伝子情報は全ゲノム中の5% x 0.66 = 3.3%程度となります。さらに蛋白質の構造上多少アミノ酸が変わった程度ではほとんど機能に影響しない部分も複数あります。というか、マストな配列は感覚的に言って、多くて数十分の一くらいです。


さらに本当に必須の遺伝子が機能しないと細胞は死にます。その数をestimateするのはちょっと難しいですが、ほとんど影響しない遺伝子、致死性遺伝子、機能が結構変わってしまう遺伝子がそれぞれ1/3ずつくらいですかね。いずれにしろ、全部が大事というわけではありません。


さらに癌になる遺伝子となると、数は相当絞られてきて、さらにそのうち、癌になる塩基の部位はさっきも書いたように1/50-1/200とかのオーダーになります。変異の種類もせいぜい1/3くらいが癌化に影響する程度です。ということで、超大雑把に見積もって、全遺伝子中癌遺伝子が1%くらいとすると、


30億 x 3.3%の遺伝子 x 1%の癌遺伝子 x 1%の大事な変異部位 x 33%の癌化変異パターン = 約5000塩基程度


実際はもう少し少ないと思いますが、まぁ、この程度のオーダーだと思います。
総塩基の0.0002%以下ですね。

(つづく)