【コラム】年間100mSvと1時間100mSvでは全く意味が異なる

santa301さんの質問に答えていきたいと思います。

「外部被爆に対する修復機能では子供の方が高いので、もし、低放射線の外部被爆を例えば3年間だけ浴びるとしたら、その影響は大人より子供の方が低いです。」
とのことですが、

社団法人日本医学放射線学会 小児CT ガイドライン―被ばく低減のために―
http://www.radiology.jp/modules/news/article.php?storyid=118 には、
・小児は放射線に対する感受性が成人の数倍高い。
・小児は体格が小さいため、成人と同様の撮影条件では、臓器あたりの被ばく量は2倍から5倍になる。
・ CT検査に当たっては、適応を厳密に検討し、小児のための撮影プロトコールを適用する。また、CT装置の品質管理に努める。
・医師は検査の必要性を患児、家族に十分説明する。
とも紹介されています。

どちらかといえば、前回へのコメントですが。どう考えればいいでしょう。

・小児は放射線に対する感受性が成人の数倍高い。


「確かに細胞分裂が盛んな子供の方が、染色体がゆるんでいる状態になっている時間が長いので、その間は言わば、甲や防具を脱いだ状態ですから放射能の攻撃を受けやすい状態ではあります。また、体積も増えていますからその分アタックされやすいとも言えます。」



の部分が当てはまります。これはその通りです。もっと高くても不思議ではありませんが、子供を傷つけて調べるわけにもいかないので恐らく細胞分裂期の細胞数が子供では成人より数倍多いとして、この数字を出しているものと考えられます。
あと細胞分裂だけでなく、子供の方が活性化している遺伝子が多いでしょうから、その分、染色体が緩んでいるとも考えられます。


しかし、この考え方をそのまま内因性の酸化ストレスに当てはめるとやはりそれによるダメージも数倍高いということになります。



そして、もし、子供のDNA修復機能が大人と同じ、もしくは大人より低いと考えると、子供は大人の数倍のスピードでDNAダメージが蓄積していることになってしまいます。


当然、癌遺伝子に変異が入る確率も数倍高いということです。しかし、それでは子供の方が圧倒的に発がん率が低いことと一致しません。もちろん、多段階理論で、あくまで前段階が増えているだけだという解釈も可能ですが、それでも、子供はものずごい勢いでDNAダメージを蓄積していることになってしまいます。



また、癌などというレアで特殊な例を出さなくても、もっと身近な酸化ストレスの影響があります。それは老化です。誰もが20代、30代、40代と年を重ねる毎に老けていきますよね。でも、子供は17歳くらいまでピチピチです。とても酸化ダメージが蓄積しているようには見えません。


つまり、子供の方が酸化ダメージが数倍蓄積しているのに、成人とDNA修復機能が同じと仮定してしまうと、成人の方が圧倒的なダメージ修復機能があることになり、老化現象と辻褄が合わなくなるのです。



よって、実際は細胞分裂と共に働く複製時修復によって、その数倍の差を子供は埋めているといえます。実際、複製時修復とそれ以外の修復機構では10の2乗から4乗くらいのエラー率の差があるので数倍程度だと十分挽回可能です。


では、子供のCTが安全かというと、そうではありません。
ここに一般的にX線/CT検査で受ける放射線量を挙げておきます。

  • 一般X線 
    • 頭部(単純) 0.1mSv
    • 胸部(単純) 0.4mSv
    • 胃(バリウム) 3.3mSv
  • X線CT
    • 頭部 2.4mSv
    • 胸部 9.1mSv
    • 上腹部 12.9mSv
    • 下腹部 10.5mSv


CTの検査は5-15分らしいので間をとって、10分としましょう。
10分間に上記の放射線を浴びるということです。これは時間換算すると60mSv/hということです。



DNA修復は粛々と行われているわけですが、当然、単位時間当たりに処理出来る上限というものが必ず存在します。


修復し損なったものが、どうなるか?詳しいメカニズムは省略しますが、ダメージの種類によっては、翻訳修復によって間違った情報が正しい情報として処理されることがあるのです。


単位時間当たりの取りこぼしが多ければ多いほど、そういう危険性は高まります。
一方、同じだけのダメージでも、ものすごーーーーーーーーーくゆっくりゆっくり受けるだけなら、処理し切れてしまいます。


本の締め切りで考えてみましょう。1000ページの原稿を1週間で書けと言われたときに自分が取りこぼしそうなページ数と、同じ原稿を1年間で書けと言われたときの取りこぼしそうなページ数をイメージすれば分かると思います。


年間100mSvをコンスタント浴びるとすると、0.011mSv/hです。
CTと同じ10分間に換算すると、0.002mSv/10minです。(CTは約10mSv/10min)



逆に言うと、もし、CTの60mSv/hを1年間浴び続けるとするとトータルは525.6Svです。この量を1時間で受けたら間違いなく死ぬレベルです。


それだけCTの放射線量が高いのだと言えます。

・小児は体格が小さいため、成人と同様の撮影条件では、臓器あたりの被ばく量は2倍から5倍になる。


これもその通りですね。イメージとして極端な例を挙げてみます。CTだとわかりにくいので、放射能が直進するだけのX線検査で考えてみましょう。放射線のエネルギーはものに当たると吸収、変質、消失しますからものの厚さが厚ければ、表面の方が高く、裏の方は低くなります。大人の方が体は厚いですから、子供の方が放射能の進達度は高くなります。 

・ CT検査に当たっては、適応を厳密に検討し、小児のための撮影プロトコールを適用する。また、CT装置の品質管理に努める。


体が大人より小さい子供の場合、放射能が深部に達するのに要するエネルギーは少なくて良いはずなので、子供を撮影するときは少しエネルギーを下げましょうということです。


・医師は検査の必要性を患児、家族に十分説明する。


子供の方がDNA修復能力が高いとはいえ、DNA修復には必ず「もれ」があります。それが癌遺伝子をヒットする確率はかなり低いですが、全くないとは言えません。
とはいえ、子供がCTを撮る必要がある時というのは、大抵の場合、生きるか死ぬかに関わるときです。1000万分の1や100万分の1で癌化する確率(数字は適当です)と、1/2で死ぬ確率を考えたら後者の方が重要なのは言うまでもありません。


一方、大人の場合、CT検査で癌化する確率は子供よりは少し高いです。しかし、今目の前に癌がある可能性があるわけですから、それを治療する方法を見出すためにCTをするのは十分な理由になります。
 


そう考えると、原発の現場で100mSv/hのところに突撃して下さっている人達のありがたみがより一層分かると思います。